2024年大晦日。ここ数年見ないで過ごしてきた紅白を見た。その結果、B’zが世間の話題を掻っ攫っていく瞬間をばっちり見れた。たまには見てみるものである。
私たちの世代はB’zを聞かない。少なくとも私の周りはそうである。かといって、稲葉氏のような歌唱力を持ち合わせているわけがないので、場が凍りつくのが怖くてカラオケでの布教は難しい。そんな中でB’zが紅白に出演するのはとても嬉しかった。今後、ラブファントムくらいはカラオケで歌いたいところであるし、このタイパ時代に逆行するような前奏の長さについて盛り上がりたいところである。
私が初めてラブファントムを聞いたのは、中学生くらいの時だった。しかも出会いはニコニコ動画。当時、私の中ではニコ動が最盛期だったので、毎日何らかの動画をニコ動で見ていた。その時、確か「90年代名曲集(シングル売り上げランキングだった気もする)」が急に私の目に飛び込み、目に入った動画は全て見る主義だった私はその動画をクリックした。
ラブファントムはその動画の数曲目にあった。初めて聞いた時は驚いた。まさしく「いらない何も捨ててしまおう」なのだ。曲に余計な要素がなかった。小気味よい疾走感と、シャープな松本氏のギターがありえないほど耳を心地よくさせた。前奏を除く本編が3分しかないにも関わらず、満足度が段違いだった。本編のテンポ感と前奏があれだけ長いことの矛盾も、全てが良かった。何度も何度もラブファントムの部分だけ繰り返し聞いた。どハマりというやつだ。
他の曲も聞いてみたくなって、一週間もしないうちにTSUTAYAでベストアルバムをレンタルし、すぐウォークマンに入れた。今の中高生は恵まれている。私がラブファントムを初めて聞いてTSUTAYAに駆け込んだ時代はサブスクなんてなかった。気軽にさまざまな音楽を聞くことは難しかった。今やサブスクに入っていれば、ちょっと気になる程度のアーティストの音楽を簡単に聞くことができる。この年になると音楽の新規開拓はなかなか難しい。頭が柔軟だった中高生の頃にもっとさまざまな音楽に触れておくべきだったと後悔している。だから、私が中高生だったころにサブスクがあればなあと何度も思っているのだ。
話が逸れた。早速借りてきたCDの一番最初から聞いた。「だからその手を離して」。イントトロを聞いた瞬間から、ラブファントムとかウルトラソウルとか、当時思い描いていた”B’zの音楽”とは全く違ったもので驚いた。何というか、打ち込み感というか、TMNのSELF CONTROLっぽいというか。今思えば、松本氏がTMNのサポートメンバーだったそうなのでそれは納得なのだが。
「君の中で踊りたい」も「だからその手を離して」と同じようなサウンド感で、TMNも好きだったのですぐにハマった。続いて3曲目は「LADY-GO-ROUND」だった。これが問題の曲。サウンドは「だからその手を離して」にロック味をさらに追加したような感じでこれはこれで好みだったが、問題は歌詞である。”こひしかるべき わがなみだかな”のような和歌的フレーズがいきなり登場する。かなりトンチキな状況なのだが、この曲の場合最初から歌詞がなかなかハード(オブラート)なのでそこまで違和感がなくてすごい。むしろ馴染んでいる。あまりに衝撃的であったので、当時色々と検索したところ、この和歌フレーズは万葉集からの引用であるそうだ。歌詞に万葉集を引用するロックバンド。これはまさに、かなりロックである。
トンチキすぎて当時はなんだこの曲と思っていたが、よくよく歌詞を見ると、そのトンチキの中に、キラーフレーズがあった。
”Merry−Go−Round よりどりみどり やっぱり君がいい”
これである。今までの歌詞の中で散々星の数ほど恋がある、すぐに見つける、次はどんな人と言っておきながら、結局”君”なのか。このストレートな歌詞が中学生ながらに胸に刺さった。和歌のおかげでスッと心に入ってくる歌詞ではないはずなのに、最後にこのストレートな言葉を持ってくるところがまたトンチキで良かった。本当にいい。何度聞いてもいい。初めて聞いた日から何年も経ったが、今でも定期的に「LADY-GO-ROUND」を聞いている。B’zもサブスク解禁が遅かったので、サブスクが解禁されるまでは使い古したウォークマンで聞いていたくらい、この曲が好きだ。
紅白のラブファントム・ウルトラソウルを経て、B’zの曲をファーストシングルから聞いてみようと思う人が何人かはいるはずだ。その人たちに「LADY-GO-ROUND」が刺さることを祈っている。そしてどうにか周りの人にも布教してほしい。
私はというと、友達に聞かせてみたが「何この歌詞」と言われてしまった。自分のお気に入りの曲を理解してもらうのはどうにも難しい。それでもLADY-GO-ROUND、やっぱり君がいい。